――ぼくは、
ううん、違ったかな。
俺は名前が無くなった。
名前ってとっても大切でね、人間って元々ある記号で固まって認識されて、人と人と、間に挟まって自分になると思うんだけど。名前ってとってもわかりやすい。それは人間のコミュニケーションの手段として最も重視されている部類の一つに、肉声か或は文字か、なんにせよ文字という物があるからだ。
だから名前は重要で、それを僕は失ってしまった。今の私は私に一番近しいヒトも私を呼ぶことができないの。それはその手段の有無や意志に関係無く実行不可能という事になっている。だから今、俺に名前は無い。
でも、ね、だからこそこうやっていろんなことを言えるのかもしれないのかな。人間が存在として認識されるための記号、まだ私はそのすべてを失ったわけじゃないけれど大きな枷の外れたという事にはなにも間違ってない。枷、いや?枠?どういうのが正しいのかな、それもまず怪しいんだけど、でもそれを話してたら結局堂々巡りになっちゃうから手っ取り早く本題に入ろうよ。
あぁでも本題と言っても何を話そうかな。それもまず話すのに言っておいた方がいいのかな。俺も思っているんだ、今話しているのは一体誰なのか。名前を失ってしまった以上それに対する返答も明確な答えを用意する事は可能ではないけれど、手掛かりが無い訳では無い。というかね、人間って、結局のところ人間の中で生まれて人間の中で育って人間の中に存在する、他者が認識してくれなきゃそれって存在しないのと同じなんだ。いいえやっぱり駄目ね、言い切ってしまっても駄目ね。でも何か仮にでも言っておかないとさ、一応説明ってことになるのかもしれないから。だがこれには最初から意味なんてないだろう。それはわかってるよ。あたしはわかってる。
じゃあ何を言いたいのかな。それはあんまり難しい事じゃなくて、今ぼくにのこされている記号。僕はそれを抱えてここまでの俺たちの言葉が意味を持たない所に突然放り出されちゃって。宙ぶらりんは苦しいわ、時間って待ってくれないのよ。それは俺もわかってるさ。だから記号って薄れていて、少しづつ戻れなくなっている。その中でも多分、薄れないものってあるんだけど、思いつくのは髪の色や瞳の色、己の物質的な部分。それらは決して薄れはしないが同時に時間と共に常に流れていく、ある意味全く縁とは程遠い。私が薄れてほしくないのはそんなものじゃなんだって、そう思う俺も少しづつ離れていっているのはわかるかな。だから彼に、彼も曖昧になってきているから。
――そろそろ疲れてきた。
そもそも君には初めから名前なんてなかったじゃないか。
――そうだね。
本当に意味が無い。
だから――
駄目だよ。
わかっている。
これは意味があってはいけない。
わかってる。
――そう…。
――――――
ううん、違ったかな。
俺は名前が無くなった。
名前ってとっても大切でね、人間って元々ある記号で固まって認識されて、人と人と、間に挟まって自分になると思うんだけど。名前ってとってもわかりやすい。それは人間のコミュニケーションの手段として最も重視されている部類の一つに、肉声か或は文字か、なんにせよ文字という物があるからだ。
だから名前は重要で、それを僕は失ってしまった。今の私は私に一番近しいヒトも私を呼ぶことができないの。それはその手段の有無や意志に関係無く実行不可能という事になっている。だから今、俺に名前は無い。
でも、ね、だからこそこうやっていろんなことを言えるのかもしれないのかな。人間が存在として認識されるための記号、まだ私はそのすべてを失ったわけじゃないけれど大きな枷の外れたという事にはなにも間違ってない。枷、いや?枠?どういうのが正しいのかな、それもまず怪しいんだけど、でもそれを話してたら結局堂々巡りになっちゃうから手っ取り早く本題に入ろうよ。
あぁでも本題と言っても何を話そうかな。それもまず話すのに言っておいた方がいいのかな。俺も思っているんだ、今話しているのは一体誰なのか。名前を失ってしまった以上それに対する返答も明確な答えを用意する事は可能ではないけれど、手掛かりが無い訳では無い。というかね、人間って、結局のところ人間の中で生まれて人間の中で育って人間の中に存在する、他者が認識してくれなきゃそれって存在しないのと同じなんだ。いいえやっぱり駄目ね、言い切ってしまっても駄目ね。でも何か仮にでも言っておかないとさ、一応説明ってことになるのかもしれないから。だがこれには最初から意味なんてないだろう。それはわかってるよ。あたしはわかってる。
じゃあ何を言いたいのかな。それはあんまり難しい事じゃなくて、今ぼくにのこされている記号。僕はそれを抱えてここまでの俺たちの言葉が意味を持たない所に突然放り出されちゃって。宙ぶらりんは苦しいわ、時間って待ってくれないのよ。それは俺もわかってるさ。だから記号って薄れていて、少しづつ戻れなくなっている。その中でも多分、薄れないものってあるんだけど、思いつくのは髪の色や瞳の色、己の物質的な部分。それらは決して薄れはしないが同時に時間と共に常に流れていく、ある意味全く縁とは程遠い。私が薄れてほしくないのはそんなものじゃなんだって、そう思う俺も少しづつ離れていっているのはわかるかな。だから彼に、彼も曖昧になってきているから。
――そろそろ疲れてきた。
そもそも君には初めから名前なんてなかったじゃないか。
――そうだね。
本当に意味が無い。
だから――
駄目だよ。
わかっている。
これは意味があってはいけない。
わかってる。
――そう…。
――――――
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